宝石商リチャード氏webSS

April 7,2017

web書き下ろし短編  宝石と、ケーキ。  どちらにしても俺の上司、無類の美貌を誇る宝石商リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン氏の好物である。もちろん彼は宝石を食べるわけではないしケーキをお客さまに商うわけでもないので、それぞれ愛で方は違っているが、どちらも同じく、彼の心の大事なところをしめている、ある意味『彼の一部』という感じの要素だ。それからもちろん、ロイヤルミルクティーも。  銀座七丁目の雑居ビル二階。リチャードの営む宝石店『エトランジェ』には、それなりの理由があって、宝石店にあるまじき立派な厨房がついている。ほぼお茶くみのアルバイトである俺の主な持ち場だ。  鍋の火を止めて、厨房から、ちらりと応接間の様子をうかがう。  次のお客様がお越しになるまでにはあと一時間ある。骨太のセールストークを繰り広げた店主は、ひとりソファで休憩中で、甘味大王モードになっている。本日のお茶請けは甘夏のた