宝石商リチャード氏SS再録3

July 8,2017

エトランジェの日常 ―クンツ博士とモルガン―  銀座の宝石店エトランジェの土曜日は長い。とりわけ今日は長かった。十一時の開店から三時まで、ひきもきらずお客さまがご来店になられて、俺もリチャードも昼を食べ損ねてしまった。三時半になってやっと、コンビニのおにぎりなんか食べている始末である。四時になったらまたお客さまがご来店の予定だ。まだまだ先は長い。  赤いソファに腰掛け、野菜たっぷりのおしゃれなサンドイッチを平らげたばかり男に、なあ、と俺は声をかけた。 「どうして石って、みんな最後に『ナイト』がつくんだ?」  俺の質問の意味を、イギリス人のリチャード氏は、少し考えていたようだった。端麗な沈思黙考の顔になり、口の中をロイヤルミルクティーですっきりさせた後、ああ、と彼は頷いた。 「あなたが言っているのは、アレキサンドライトやアラゴナイト、クンツァイトなどの、名称の話ですか」 「そうそう! それだ