ムーンケーキの季節

August 24,2018

「中秋なのにこの眺め、新鮮ですね!」  あははは、と笑いながら、快活な女性のお客さまはエトランジェを後にした。広東語、つまり香港の言葉と日本語が一対一くらいの割合で入り混じる会話は、俺にはよくわからず、ほぼリチャードが一対一で接客にむかっていたが、時々俺の方を見てニコッと笑ってくださる、歯切れのよいお客さまだった。ハスキーボイスで、ワンレングスのアッシュブラウンの髪はつやつや、体はモデルさんのようにすらりと細長い。  彼女が見ていたのは、ムーンストーンのジュエリーだった。  ルース、つまりまだ身に着けられる形にはなっていない裸石を扱うことが比較的多いエトランジェには珍しく、リングやブローチ、ネックレスの形になった作品を、彼女は一つ一つ吟味して、最終的にブローチをお買い上げになっていった。あらかじめ彼女が、そういうものを見たいと、リチャードにオーダーしていたらしい。  青い燐光を放つ、ミルキ