オジェ・ル・ダノワとラ・イール

July 29,2021

【注意 この小説には「宝石商リチャード氏の謎鑑定」10巻以降のネタバレが含まれます。可能であれば該当巻、あるいは11巻までご通読の上、お目通しください】                     「あっつ。あっつい。あつすぎ。日本の夏は過ごしやすいなんて言ったやつは大嘘つきよ」 「誰もそんなこと言ってないよ」   よく冷房の効いたホテルの一室で、男はたてがみのように、ポニーテールにした長いアッシュグレイの髪の男をゆさぶった。それを見ている男が、苦笑して飲み物を持ってくる。冷えたペットボトルのお茶を、ホテルの据え付けのグラスに移しかえたものだった。 手に持たされたグラスで、強制的に乾杯させられ、長い髪の男は芝居がかったため息をついた。   「別に疲れたって意味じゃないからね。