宝石商リチャード氏SS再録2

February 14,2017

繋ぐクリソプレーズ 『ジュエリー・エトランジェ』銀座七丁目にひっそりと居を構えている。店主のリチャードは、この世のものとは思われない美貌の持ち主だが、どれほどの麗人でも、半年も土日に顔を合わせていればさすがに慣れてくる。慣れた分疑問も沸いてくる。 「なあリチャード、お前って甘いもの以外に好物はないのか? ラーメンとか食べないのか?」  麗しのリチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン氏は、青い瞳を眇めて俺を見た。赤いソファに腰掛ける彼は、大振りの宝石箱の中身を、窓から差す午前の光にかざして眺めている。 「質問の意図をはかりかねます。何故『ラーメン』なのです。あなたとは何度か食事もご一緒しましたよ。好き嫌いなく食べます」 「それは分かってるよ。別にラーメンに限った話でもないけどさ、お前ってあんまり……そういうの食べないだろ?」  ニラとか。にんにくとか。肉汁滴る焼肉とか。  イメージに合わないこと

宝石商リチャード氏SS再録1

February 13,2017

クレオパトラの真珠  昨日は久しぶりに、テレビ局の夜勤バイトだった。宝石店『エトランジェ』での土日のアルバイトの邪魔にならない範囲で、まだ少しだけ続けている。夜勤室にある消音状態のテレビからは、バイト先の局のチャンネルしか流れない。俺が入った六時には、歴史系のクイズ番組が流れていた。  特に興味のあるジャンルではなかったのだけれど。 「あのさリチャード、真珠って本当に、酢に溶けるのか?」 「クレオパトラの逸話ですか」 「うお、さすが宝石商」 「一般常識です」  紀元前のエジプトの女王だったクレオパトラは、ローマの将軍アントニウスと『どっちが豪華な食べ物を準備できるか』バトルをしたという。アントニウスは正攻法で世界の珍味をずらりと並べて見せたが、女王は変則技を使った。耳飾りにしていた大粒の真珠を、カップに注いだ酢で溶かし、アントニウスの前で飲みほしたのだ。  あっけにとられるアントニウスに、