俺は中田正義。どこにでもいる平凡なラーメン屋『なかたや』の店主だ。とある田舎町の某所に店を構えている。なかたやのラーメンはだしが決め手で、何と言ってもおすすめはしょうゆ。最近はとんこつも人気だ。右隣にはイングリッシュ・パブ『ジェフ&ハリー』、左隣にはスリランカ料理店『ランプの魔神』があるので、会社の昼休みの時間帯には混雑するが、顔ぶれの八割は常連さんだ。 常連さんたちは、いつも俺のラーメンをおいしいと言って食べてくれる。 それはとても嬉しい。 でも、できることなら、ひさしぶりに新しいお客さんに出会いたい。 ぬるまゆの中でたゆたう俺を、厳しく窘めてくれるような人でもいい。 わがままかもしれないが、そんな風に思っていた時。 まさにその時だった。 なかたやの赤い暖簾を、俺の見知らぬ人影がくぐってきたのは。 「いらっしゃい!」 「お邪魔いたします」 しゅっとしたシルエットの男性だ