「いいこと教えてやろうか。お前、雑用全部押し付けられてるぞ」 「そんなことはないよ、ワン。諸先輩は私のためを思ってこういったことを」 「押し付けられてんだよ。あいつらは今頃ネオンカラーのピンクのビールで乾杯してるぜ。賭けてもいい」 「ピンクのビールは飲んだことがないな……私の知っているビールというのは、どれも静脈血のような青黒い色をしていて」 「喩え方! 人間らしく適切な喩え方をしろ! 普通の人間は飲み物を血液には喩えねーの! OK? グロいだろ」 「オーケー……すまなかった。無粋なことをした……」 「わかりゃいいけどさ。ったく、ガラクタばっかりだぜ」 「まだまだ使えるものも多いよ」 海上都市キヴィタス自治州高層階。 天にも届く高さの機械仕掛けの街の片隅で、ひとりの人間とひとりのアンドロイドが作業にいそしんでいた。どちらも背中に巨大な金属の籠を背負い、筋力を十倍に増強するロボットアームを装
「知ってるか、こういうのを昔の世界では『ゴミ屋敷』って言ったんだぜ」 「ゴミ屋敷…………いや、この屋敷の構築物は従来の建造物と同じ、リサイクル素材でできたアスファルトとセラミックで」 「あーあーそういうことじゃねーよでももうそれでいいよ」 海にそびえる白亜の塔、キヴィタス自治州。 富裕層しか暮らすことのできないその最上階近くで、一人の人間と、一体のアンドロイドが立ち尽くしていた。 目の前に広がる屋敷は、たまねぎのようにたわんだ屋根を幾つも擁する、おとぎ話の宮殿のような建造物だったが、その周辺。 全てを。 半透明のポリ袋が埋め尽くしていた。 廃棄物である。 中身は全て、布類であった。 服である。 「過去のこの屋敷の持ち主、アンドリューズ・ワイエムは著名なデザイナーだったそうだ。天候管理部門にも物言いが可能な権力者で、この屋敷のまわりには雨を降らせないようにという言いつけも厳守させたという。逝
5月18日、集英社オレンジ文庫から、『あいのかたち マグナ・キヴィタス』が発売されました。辻村七子初のSF短編集です。アンドロイドやサイボーグたちがふつうに存在する未来の世界を舞台に、主にアンドロイドの修理を請け負う人たちの姿を描いています。 雄大な挿画は、くろのくろ先生です。 辻村の今年になって初めての本、ぴっかぴかの新刊です。 とはいうもののこの『マグナ・キヴィタス』というサブタイトルにあるように、この本の舞台になっているキヴィタスという海上都市は、2017年の作品『マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年』と同じ場所です。 あの時の主人公、エルことエルガー博士と、ちょっとなまいきな少年アンドロイド・ワンの姿を、久しぶりに書かせていただくことができました。 とても嬉しかったです。 『マグナ・キヴィタス』はシリーズというよりも、世界観を同じくした場
2018年2月20日に、『マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年』が、集英社オレンジ文庫から発売されます。 未来の海上都市キヴィタスを舞台にした、SF(すこし・ふしぎ)なお話です。 素敵なカバーイラストを描いてくださったのはserori先生です。 金髪碧眼に白い服のひと、謎めいた横顔を見せるひと、そして手前にいる機械仕掛けの動物! 素敵な表紙を見るたび、わくわくしてしまいます。 serori先生、本当にありがとうございます……! 前作『宝石商リチャード氏の謎鑑定』よりも、デビュー作の『螺旋時空のラビリンス』に近い、ちょっとだけハードな雰囲気のお話かもしれませんが、同じように楽しんでいただけたら嬉しいです。 またここに出てくるアンドロイドの設定は、2008年ごろ、私が個人webサイトで小説を書いていたころのお話に、設定の部分で似ている部分がちょこちょこ出てくるのですが、十年前の私の書いて
2018年2月20日に『マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年』(集英社オレンジ文庫)が発売されます。 今回はタイミングがあわなかったこともあり、特典SSがないリリースになったため、何か特典があったらいいな……新しい本だから発売前に検索しても中身のことはわからないだろうし、なんとなく「こんな雰囲気ですよ」とつかめるものがあれば…… と思った結果、twitterで35ツイートほどかけて、短い小説を更新しました。せっかくなのでblogにまとめます。 本編を読む前でも、読んだ後でも、読もうかどうか迷っている時でも、特にこれというネタバレはありません。 ご笑納ください。 ——- Prelude for Civitas ようこそキヴィタスへ! 僕の名前はハビ・アンブロシア・ハーミーズ。ハビでいいよ。見ての通り何の変哲もないサイボーグだけど……え? 映ってない?