2020年12月18日、集英社オレンジ文庫から
「忘れじのK 半吸血鬼(ダンピール)は闇を食む」
が発売されました。
スタイリッシュな挿画は、高嶋上総先生です。
現代のフィレンツェを舞台に、わけありの医学生ガブリエーレ(画像左の黒髪のお兄さん)と、さらにわけありの半吸血鬼の青年(日本人。画像右側の茶髪のお兄さん)が、出会って、一緒に小さな冒険を繰り広げます。
半吸血鬼の青年には隠し事があるのですが、ガブリエーレはどうしてもその秘密の答えを知らなければならない事情を抱えています。
ガブリエーレは答えにたどり着けるのか? 青年は何故隠し事を抱えているのか? 最後に二人はどうなるのか?
また不器用な男二人の物語になりました。お好みに合えば幸いです。
2020年は大変な年でした。
宝石商の第二部が完結した後に、長期のおでかけ(取材)を計画していたのですが、サイン会も中止になったこのご時世にあえなく頓挫、今年は一度も旅らしい旅をしないまま、年の瀬を迎えることになりました。
私だけに起こったことではないと思います。
本作は現代の、しかし新型ウイルスの懸念はない、イタリア・フィレンツェが舞台になっています。長靴型のイタリア半島の真ん中あたりにある、歴史地区で有名な都市です。いつ訪れてもさまざまな観光客でひしめいている、世界有数の観光地です。
SNSと動画の時代になった今、フィレンツェがどういう状態なのかも少し探せばすぐに出てきます。盛り返してはきたようですが、今までの年に比べれば、静かなようです。日本からイタリアに出かける困難を考えれば納得の状況です。
こういう状況で、「そうではない世界」を描くことに意味があるのか、自分はそれでいいのかと、書き終わった後にも悩みましたが、発売日を迎えた今、胸をはって「よかった」と思えるようになりました。
本の世界ではいろいろなことができます。今年は一度も旅行に行けなかった人も、本をひらけばその瞬間、異世界にトリップすることだってできるし、見知らぬ仲間と冒険を繰り広げることだってできるのです。日々そういう世界から力をもらっている人間として、そういう世界には、ルポルタージュと同じくらいの意味が、力が、あるのではないかと強く思います。もちろん別軸の「力」なので、比べることは無意味だと思うのですが……。
今日も戦い続けている人たちの。
ひとときのやすらぎになれるなら。
こんなに嬉しいことはないです。
そういえば「K」たちの先輩にあたる、宝石商のリチャードさんがこんなことを言っていました。「生きることは戦いですから」と。
今日も戦っている人たちに、このお話を捧げます。
応援歌をうたうように、私はお話を書きます。