いつかオペラ座で

May 14,2022

子どもの時、ロンドンの劇場、ロイヤルオペラハウスにあるカフェテリアの上の飾り物が食べたかった。つやつやしたマスカットや、穴のあいた三角形のチーズ、麦わらのカバーにつつまれた胴体の丸いワインの瓶。絵本の中に出てくるごちそうそのままだったから。飾り物ではなく、本当に、食べるために置いてあるのだと思っていた。そしてそれは全部大人の――VIPと呼ばれるような人向けで、だから私には食べさせてもらえないんだと信じていた。そして私は真実、それがいつか食べられる日を夢見ていた。 本当に『大人』になって知ったのは、あれは全部飾り物で、本当に食べるためのものじゃないんだということだった。同時に私は、大人になるということの意味を知った。 夢を見られるのは子どもの間だけで。 夢に大した意味なんてないとわかるのが、大人なのだ。 窮屈なドレスに身を包んで、私はロイヤルオペラハウスのエレベーターに乗った。コヴェントガー

リチャード氏の第三部が始まります

May 1,2022

5月になったばかりの今日から数えると、二か月ほど先ですが 6月17日に「宝石商リチャード氏の謎鑑定 少年と螺鈿箪笥(らでんだんす)」の発売が決定いたしました。 宝石商シリーズの第三部こと、最終部です。 ファンブック、番外編にあたる『輝きのかけら』も含めると、既にリチャード氏シリーズは12巻の大ボリュームになっています。途中下車なさった方、あるいは本編10巻で終点になった……と降りた方もいらっしゃると思います。 でも実は、まだ終わっていなかったんです。 そんなに長くは続きません。これまでも「もう少しだけおつきあいください」と言いながら、一部後半、二部と続けさせていただいてきたのですが、今回は本当に「そんなに長くは続きません」。 (と言っても、今のところの12冊のボリュームで、その何分の一の量、続くのか? と具体的に考えると、「そこそこ長い」かもしれませんが……) 中田正義くんと、リチャード氏

家族の誕生日

May 1,2022

母の誕生日だったので、洋食屋さんにデリバリーを頼みました。 父、母、私の三人でディナーです。 誕生日ですということを伝えたので、注文したじゃがいものスープが、リボンで包まれたパッケージに入っていました。 短く切られた赤いリボンは、再利用が難しそうだったので、捨ててもいい? と尋ねると、 「とんでもない! 私たちは赤い糸でつながれているのよ。 赤の他人だったかもしれないのに、どうしてか夫婦だったり、母子だったりする。 大事にしましょう」 と。 そんなわけでリボンは保存されることになりました。   そんなに名言をぽんぽん発するタイプの人ではなく、どちらかというと 不用意にいいこと然とした言葉を発すると、シニカルにまぜっかえしてくるタイプなのですが 今日はそんな感じの母でした。 じんときたのでblogにメモしておきます。   元気でいてくれるのが、とても嬉しいです。