「では今回のエチュードの内容は、『親切なお金持ちの貴族と貧乏な学生と雑誌の記者』だ」
「おおー!」「オウ……」
「下村さんが『お金持ちの貴族』は確定ですね。エンリーケさんはお金持ち以外でしたから、学生と雑誌記者、どっちにします?」
「……デハ、学生デ」
「了解です。じゃあ俺は雑誌の記者ですね。どんな記者にしようかなあ」
「うーん、俺お金持ちになったことがないからわっかんないですけど……エンリーケ、どんなのだと思う?」
「ソウデスネ、よくいるところでは、パパラッチ?」
「なるほど! じゃあ俺は貴族の下村さんのパパラッチってことで。設定はエチュードしながら考えましょう」
「それが良作だな。ではお三方、よろしくお願いいたします。ようい!」
・・・
「あー、お金があるある! お金があるなあ!」
「オウ、ハルヨシ、お金持ちはあまり、『お金がある』とは言わないカモシレマセン。何故なら生まれたときから、お金がアルカラ……」
「そうか。そうだよな。エンリーケはお金持ちの友達も多そうだし、そういうの詳しいんだ。じゃあ、普通にしてるよ」
「と、そこへ俺、パパラッチが登場しました! 下村侯爵! 下村侯爵! パシャパシャパシャ! 先日の大規模株式投資に関する見解をお願いします! パシャパシャパシャ! ちなみにこれはシャッター音です!」
「えっ俺わかんないんだけど……!」
「ハルヨシ、そういう時は無表情にこうイウ。『ノーコメント』」
「かっこいい……! 『ノーコメント』」
「パシャパシャパシャ! 侯爵! そちらの学生さんとはどのようなご関係ですか? 親しくしていらっしゃるのですか?」
「あ、はいはい。そうです。えー、下村侯爵はですね、非常にお金があるので、困っている学生さんに金銭的な援助をしているんです。で、あの……そうだなあ……設定が思い浮かばない……」
「そのタメ時々学生サンを侯爵のおうちに招いて一緒にセッションしたりしているのデスネ。キット今日はその日なのデショウ」
「オー! エンリーケやるう! そうそう、そういう日なんです。音楽友達ですっ」
「音楽友達! すばらしいですね! しかし金銭によって繋がった交友関係は果たして本当に友情と呼ぶことができるのでしょうか! パシャパシャパシャ!」
「えっ……」
「オウ。無礼な記者。侯爵、使用人を呼びまショウ。出禁指定です」
「いや、大丈夫だよ。大体パパラッチって失礼なものだしさ。えーと、そうですね、あのー」
「侯爵、相手にする必要はナイ」
「大丈夫だよエンリーケ。ええとですね記者さん、俺はお金があって、学生のエンリーケにはお金がないんです。でもこれって、俺たち個人の問題じゃなくて、どちらかというと俺たちの親とか、その親とか、もっとさかのぼると社会とか歴史とかに関係してくる話ですよね? 俺は難しいことよくわかりませんけど、それって生まれつきのもので、俺たちにはどうしようもないじゃないですか。そういうところの事情のせいで『本当の友達じゃないんじゃないの』なんて言われるのは、正直意味不明だと思いますね。確かに下村侯爵は学生エンリーケに支援をしてますよ。でもそれは『必要なものを必要な人に』っていう、当たり前のことをしてるだけで、お金で友達を買いたいと思ってるわけじゃないです。そもそもお金で友情は買えないですし、俺はこの人と本物の友達なので」
「パシャパシャパシャ! 侯爵! すばらしいスピーチでした! これを記事にしても構いませんか?」
「えへへ! 照れますね! いいですよ記者さん。でもその前におみやげを持たせてあげるから、うちの執事が来るまで待っていなさいね。それが終わったらエンリーケとセッションするから、よかったらそれも聴いてく?」
「パシャパシャパシャ! なんていい人なんだろう! ではお言葉に甘えて! 学生さんもそれでいいですか?」
「………………ええ、モウ、ナンデモ」
「……このくらいにします?」
「オッケーです!」
・・・・・
「いやあ、ほのぼのしたお芝居になりましたねー。パパラッチ役がいるから、もっとガツガツ来るかと思ったんですけど」
「見事でしたよ、下村侯爵。やっぱりああいう余裕は『お金持ち』って感じがしましたね」
「うわ、本物の俳優さんに褒められちゃったよ! エンリーケ、エンリーケ?」
「勝、階段が出現した。そろそろ行けるぞ」
「エンリーケ、大丈夫?」
「………………うちの執事に、おみやげを持たせますノデ、そこのお二方、少々お待ちを」
「エンリーケ! もうお芝居は終わったからいいんだよ! 学生の役は難しかったかもしれないけど、エンリーケはいつもかっこいいから、別に学生の役なんかできなくたっていいんだよ」
「……ありがとう、ハルヨシ」
「どういたしましてー。へへ」
「僕たちはそろそろ失礼いたします。それではよいお年を」
「学生役、エンリーケさんはやりづらそうだったなあ。どっちかっていうと、あの人の方がお金持ちの貴族ってイメージだったけど」
「人間は誰しも役を通して夢を見るものだ。むきだしの現実を見たいと思って芝居を見に来る人間はいない」
「おっと、次の階が見えてきたぞ!」
「ああ。しかしこの塔は何階まであるんだ……?」
「だからここもあの天パの主任のおぜん立てで……」
「しかしワン、私は仕事中だったので……」
「ああ、もう外国の人がいても俺は驚かないぞ! こんにちはー! 二藤勝です」
「鏡谷カイトです」
「……へえ、人間が来たぜ。おいエル、相手してやれよ」
「こんにちは。エルガー・オルトンと申します」
to be continued….