「よし、エチュードの内容は『花屋のお兄さんと、これから告白に行く高校生の会話』だ」
「かわいいなあ! わかりました。じゃあ天王寺さん、俺が」
「おじさんが高校生ね。で勝ちゃんが花屋のお兄さん」
「えっ、ええーっ、逆じゃないんですか」
「それじゃ普通すぎて面白くないだろ。勝ちゃんの演技力向上のためを思ってる鏡谷演出の気持ちを汲めば、この配役が妥当だよ。だよね?」
「そういうことでもいいでしょう。勝、スピードの勝負だ。一本の劇を進ませ、おわらせることを意識しろ」
「わ、わかった」
「おじさんはいつでもいいよ」
「ではいきましょう。スタート!!」
・・・
「こ、こんにちは…… お花、ください」
「いらっしゃい。何を差し上げましょう」
「えっと、あの…… 若い子が、好きそうな花がいいんですけど」
「ああ、彼女さんにプレゼントするのかな? 立派な子だねえ!」
「えっと、そうじゃなくて…… 恋人になってもらえたら、嬉しい人なんですけど……」
「ああー! そういうこと! じゃあ頑張らなきゃね。君はどんな花が好きなの?」
「お兄さんは、どんな花が好きですか?」
「えっ俺? そうだなあ、ひまわりとか?」
「冬ですよ」
「いやいやいや、この花屋は有能だから、冬でもちゃんとひまわりがあるんだよ」
「お値段、高いんじゃないんですか……」
「いいんだそんなことは! お兄さんがおまけしてあげるから! 他にはどんな花が好き?」
「お兄さんはどんな花が好きですか?」
「また俺? そうだなあ、かすみそうとか……?」
「じゃあそれをください」
「ひまわりとかすみそうだけだと寂しいから、えー、こっちの赤い花と、こっちの青い花も足そうね。はいできた! いい花束だよ。お兄さんは少なくともこのお花大好きだな。頑張って!」
「わかりました。お支払いはこの電子通貨で」
「あっこれは、飛ぶ鳥を落とす勢いの天王寺司さんがCMに出演してる電子マネーだ! はい、ピポパ! 決済完了! 一世一代の舞台にいってらっしゃい! きっとうまくいくよ」
「わかりました」
そして跪く高校生。
「お兄さん、つきあってください! ずっと前から好きでした!」
「えっ、俺?!」
「毎日学校に行く途中に、お兄さんが花屋でがんばってる姿を見るたび、『すてきなひとだな』って思ってました! どうか僕とつきあってください!」
「えっ、えーと、えーと……よろしくお願いします?」
「やったー!」
・・・
と、カイト、パンと手を叩く。エチュードの終了。
天王寺、腹を抱えて笑い、勝は困惑している。
「て、天王寺さーん、びっくりしましたよ。途中からちょっとオチは読めましたけど」
「いやいや、『よろしくお願いします』って、簡単に受け入れすぎだよ。勝ちゃん、もうちょっと用心しようね」
「いいんですよ、相手は高校生なんですから。告白のためにお花を準備するってところから好感度大でしょ。きっとこの二人うまくいきますよ。なあカイト」
「そこまでの未来が考えられているのなら、このエチュードはひとまず成功ということになるだろう。見ろ」
「あ」
何もなく、がらんとしていた部屋に、いつの間にか上の階へと続く階段が出現している。
驚く二人に、天王寺ほほえみかける。
「まあ年末だかね。何が起きても不思議じゃないさ。楽しんできなよ。おじさんはこれでお役御免だけど、応援してるから」
「……わかりました! カイトと二人三脚で頑張ります!」
「ベストを尽くします。ありがとうございました」
「はいはーい」
そして二人は階段を上る。
そこに待っていたのは……
「新手のVかダンピールか!?」
「まってガビー、普通の人間に見える」
「あっどうも。二藤勝です。『アクター』の方ですか? よろしくお願いします。外国の人がいらっしゃるなんてすごいなあ」
「鏡谷カイトです。よろしくお願いいたします」
どうやら次のアクターは、日系イタリア人の男と、ややくたびれた風情の若い日本人の青年のようだ……。
to be continued…..