「……目が合っちゃったんだよな」 そう言って俺、中田正義は、リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアン氏に、しずしずと透明なビニールの包みを差し出した。袋の口には赤字に金糸で刺繍された、はなやかなリボンが巻かれている。 中身はぬいぐるみである。 ひとかかえはあるかという、淡いクリーム色のくまちゃんである。 ところで俺、中田正義はアラサーである。大学生であったことも、もはや懐かしい思い出に化けつつある。良識のなさも多少は緩和されてきたと思う。そういうのは日々の勉強だとも思う。まあそれはいい。 俺は既に、そういう人間であるはすなのに。 大事な人の誕生日に、いきなり趣味でもないものを買ってくるのはどうかと思う。 十二月二十四日。クリスマス・イブの日。 俺の大切なリチャードの誕生日でもある。 毎年プレゼントには頭を悩ませる。ロイヤルミルクティー好きのリチャードらしき茶器を選んだこともあれば、寒いシーズン
2025年12月3日に、早川書房(ハヤカワ文庫JA)から「博士とマリア」が発売されました。 世界が沈没した後の世界を、医療船で旅する「博士」と、助手ロボットの「マリア」のSF作品です。短編連作で、5本収録されています。今まで書かせていただいた作品の中では、「マグナ・キヴィタス」に一番近い世界観ではないかと思います。 担当のKさんが「私が担当した中で間違いなく、一番読みやすい(SFが得意じゃない人にも、という意味)SFです!」と言ってくださった一冊です。とても楽しく書かせていただき、SFマガジンに連載するという初めての体験もさせていただきました。 収録されている「殻むき工場船から」は、もともとのタイトルは「殻むき工場船」だったのですが、友人に『キャラメル工場から』という作品の存在を知らせてもらい、それじゃあ蟹の船とキャラメルのハイブリッドにしよう! と思いこのタイトルになりました。 既に全国
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