Time to Act 第二幕

December 31,2021

「……そうだな、では加藤さん、ガビーさん、勝、三人のエチュードは

『愛のためなら死ねると豪語する男とその恋人と犬』だ」

「待て待て待て。俺と悟は演技の初心者だぞ。その中で、誰かが犬をやらなきゃいけないのか」

「大丈夫です。犬はただ寝ているだけでもいいですし、時々『ワン』と吠えるだけでも構いません。恋人も、男でも女でも構いません」

「ああ、じゃあ、お二人が先に役を選んでくださいよ。俺、あまりものをやります。そんなに演技の経験は長くありませんけど、一応プロなので、何でも楽しんじゃいます!」

「………………かっぱ、どうする」

「俺は、そうだなあ……じゃあせっかくだから、『死ねる』って言う人かな」

「わかった。じゃあ俺は犬だ」

「俺が恋人ですね。カイト、せっかくだから、俺は『女の人』って想定でやってもいいかな」

「オールメールの舞台ではよくあることだ。挑戦してみるといい」

「了解! じゃあ悟さん、ガビーさん、お願いしますね」

「頼んだ」「お願いします」

 

・・・

 

「ええと……俺は愛のためなら死ねます」

「あなたそんなこと言わないで。あなたが死んじゃったら私はどうすればいいの」

「そ、そうですよね! ねえポール。あ、ポールって言うのは、犬の名前です」

「わんわん! 芝居を進めることを考えろワン!」

「あっ、ポールが助言をくれた。そ、そうだねえ……でも、俺は、死ねるわけですし……」

「あなた死ねる死ねるって、死ねることが特権みたいに言わないで。人間だれしも人生は一度きりしかないのよ。限られた時間を生きるのが美しいんじゃないの」

「………………本当にそうですね」

「ワンワンワン! 実はこの男は永遠の時間を生きる特殊な種族で、死のうと思っても死ねないんだワン! そういう設定だワン!」

「ポール! そんなこと言わなくていいんだよ! すみません、そういうお芝居じゃないですよね」

「いえいえ、面白い設定ですよ。それでいきましょ。まあ……じゃああなたは、死のうと思っても死ねないのですね」

「…………………………そうですね」

「ワンワン! 元気出すんだワン。こいつは芝居なんだぜワン」

「なんて頭のいいワンちゃんなのかしら! 何を言っているのか私にもわかる気がするわ!」

「……そうなんです。俺は実は、死のうと思っても死ねないんですが、あなたのためなら死ねるような気がするんです。愛しているので。ええと……それは、もしかしたら、俺のエゴで、あなたへの愛にかこつけて『死ねたらいいのに』という気持ちを具現化しようとしているだけかもしれないんですが、でも、もし……誰か愛する人のために死ねたら……それは素晴らしいことじゃないかと思うんです。命はたった一回きりです。みんな等しく一回です。でも俺には…………その一回が…………長くて。すみません。ちょっと目にゴミが」

「いいのよ、あなた。泣きたい時には泣けばいいのよ。私はあなたの恋人なんだから、あなたの涙を受け止められるのが嬉しいのよ」

「……すみません。じゃあ続けます。あなたのために死にたい。俺は、好きな人のために、自分の命を使える人が、本当にうらやましい。俺には絶対にできないことなので……もしそれができるなら、俺はあなたのために死にたいな。ポール、わかってくれる? こんなこと言うのはよくないと思うけど、俺にはそれが、教会の千回の祈りより、ずっと大きな救いに思える」

「ワンワン。そいつはお前にしかわからないことかもしれないが、そういう気持ちを俺は尊いと思うワン! しかし、ああ、実際に犬ってやつらも、こういう気持ちをもって、でも言葉にならないもどかしさで吠えてるのかもしれないな。あっすまん。今のはセリフじゃない」

「まあ、ワンちゃんがたくさん吠えているわ。あなたのことを励ましたいと思っているのよ。あなた、何度も言うけれど、私はあなたが生きていてくれるのが一番嬉しいのよ。私のために死ねると言ってくれるのは嬉しいけれど、あなたが生きていてくれることのほうがずっと嬉しいの。わかって。くやしいわ。私も永遠に生きられたら、あなたの傍に寄り添っていられるのに」

「………………すみません。そろそろティッシュがほしいので、このくらいで」

「わかりました!」

 

・・・

 

「おお! 階段が出現してるぞ! ってことは今回のエチュードも成功だ。悟さん、すみませんでした。悟さんはすごい役者ですよ。俺、ファンタジーのお芝居はしたことがないんですけど、もし本当に自分が死ねなかったらって、本気で考えちゃいました。つらいですよね」

「………………そうですね。すみません、途中で本当に泣いたりして」

「いえいえ、役者もたいてい本気で泣いてますよ。舞台の上で役に入り込みすぎると、こう、ウワーッて」

「二藤勝。上に進むぞ。加藤さん、ガビーさん、このたびはまことにありがとうございました。年末の貴重なお時間をさいていただきまして、感謝の気持ちにたえません。おかげで勝の力が一段階パワーアップしたのを感じます。いつかチケットを送りますね」

「おう、楽しみにしてるよ」

「百年でも待ちます。ありがとうございました。よいお年を」

 

 

「ガビー、楽しかった。ありがとう」

「こんなデトックスがあるなんて思ってもなかったな。今度演劇のワークショップでも探してみるか?」

「それはバチカンに怒られそうだけど、面白いかもしれないね。不思議な気分がした。あの子、いい役者さんだったよ」

「そうだな。まあ『これから』って感じはしたが」

「楽しみだね」

「ああ」

 

 

 

「次の階にはどんな人がいるんだろうなあ? あっ、何か聞こえてきたぞ……?」

「ギターとピアノの音……?」

「あっ、お客さんだ! こんにちはー、俺、下村晴良です。こっちは友達のエンリーケ」

「こんにちは。エンリーケです」

 

to be continued…