「エルガー・オルトンです」「ワンだ。こいつの所有物だよ」
「ああっ、もう設定が決まってるタイプのアクターさんだ! 話が早いや。こんにちは。二藤勝です」
「鏡谷カイトです。では決めましょう。今回のエチュードの内容は【王と奴隷と吟遊詩人】!」
「来たな、最近はやりのファンタジー! お二人はどういう配役にしますか?」
「……ああ、演技をするのですね。ワン、どうしよう。私には何が合うだろうか」
「そりゃ順当にいけばお前が王で俺が奴隷でそっちの兄さんが吟遊詩人だろ。でもそれじゃ面白みにかける。よしエル、お前吟遊詩人やれ」
「それは歌をつくる人のことではないだろうか? 私には最も不適切な役回りである気がするのだが……」
「だから面白いんじゃねーか。そこのイケメンの兄さん、あんたが王さまやれよ。俺たちは俺たちで気ままな『身分の低いやつら』コンビになるからさ」
「ああ、わかりました。最初の設定はあんまり考えなくていいんですね。じゃあカイト、合図よろしく!」
「わかった。それではいくぞ!」
・・・
「ほっほっほ。余は王である。そこなる奴隷よ、余を楽しませよ」
「かしこまりました王さま、どのように楽しませて差し上げましょう? 俺はとても見目麗しく聡明な奴隷ですので、どのようなお申し付けにもこたえることができます」
「何と素晴らしい奴隷じゃ。ちこう寄れ、余の目をたのしませよ」
「申し訳ありませんが私は吟遊詩人なので、ここで新しい歌を披露します。『ねんまつの~、いそがしさ~、めがまわるほどの~、いそがしさ~、しめきりは~、まってくれない~』」
「待て待て待て。なんだエルその歌は」
「『何か歌詞をどうしても考えなくてはならない』と念じたら、後ろからカンニングペーパーが出てきたんだよ。その通りに歌っている。『ねんまつの~、おおそうじ~、ちょっとだけすすんだよ~』」
「おお、なんとへたくそな歌だ。吟遊詩人よ、席をはずせ。余は奴隷と楽しく遊びたいのだ」
「しかし吟遊詩人は奴隷を守らなければならないのです! 身分の高い老人のような権力者のところに奴隷をとられることは何としてでも避けたいのです! できればロケットランチャーを用いる以外の方法で……」
「ロケットランチャー? なんとも物騒なことを申す吟遊詩人じゃのう。よろしい。では余を感激させる歌をつくってみせよ。さすればこの奴隷とイチャイチャする権利をくれてやろう」
「…………やはりロケットランチャーの方が……」
「エル冷静に考えろ。これは芝居だからな。俺は別にこの王さまにとられても無理やりどうこうされるってもんじゃねーよ。それより歌だ。歌を作れよ。何でもいいから。カンニングペーパーのトンチキソングは忘れろ」
「わ、わかった……」
((((十五分経過))))
「……吟遊詩人よ、どうしても出てこないというのなら、何か別のことしてもよいのだぞ」
「考えます。私は吟遊詩人なので、必ず歌をつくります」
「悪いな王さま。こいつ一度決めると頑固でさ。まあそういうところが可愛いんだが」
「…………できました!」
「おお、でかした! では聞かせてみせよ!」
「俺にも聞かせてくれ」
『うみ
うみは ひろく
うみは とおく
うみは つめたく
うみは かなしい
しかし
うみは いつも わたしのなかに
うみの おとが きこえてくる
むねの おくに ひびく しおさい
わたしの なかに うみが ある
うみは わたし
わたしは うみ
だから
うみは ひろく
うみは とおく
うみは つめたく
うみは やさしい』
「以上です」
「おお、見事じゃ! 見事じゃ吟遊詩人! 年末の海に行きたくなってきたわい」
「……………………すげえな。俺本気で感動したよ。エル、帰ったらタルティーヌ食べようぜ」
「楽しみだ。ああっ、まだ芝居は終わっていないのだった。王さま、ご満足いただけたのでしたら、その奴隷と遊ぶご許可をいただきたく思います」
「よいぞ。何を隠そうこの奴隷はそなたのことがとても気に入っておるようでな、しばらく二人で旅にでも出て、そうじゃ、海を見てまいれ! 二人で海をみて、そうしてまた余に新しい歌を聞かせるのじゃぞ、吟遊詩人」
「……わかりました」
「よし、じゃあ行こうぜエル」
「ああ。本物の海を見に行こうか」
・・・
「何とか片付いたな! 十五分だんまりになった時にはどうなることかと思ったが」
「ようやく階段が出現したな」
「エルガーさん、すみませんでした。やっぱり吟遊詩人、俺かワンさんがやった方がよかったですかね」
「何言ってんだよ。最高の歌が出てきたじゃねえか。よかったなエル、いい役もらえて」
「…………やったことのないことに挑戦するのは、恥ずかしいけれど、とても楽しかった。二藤勝さん、ありがとうございました。私もwアンも感謝しています」
「いえいえ、こちらこそ! さっきの詩、忘れません。それじゃあよいお年を!」
「おう。よいお年ってやつをな」
「いよいよ五階だぞ。あと何階あるんだ……」
「あと二階で終わりだ。その先には最上階がある」
「えっ、カイト、なんで知ってるんだ……?」
「今通り過ぎた階段の踊り場にそう張り紙があったろうが。随分疲れがたまっているようだな。これが終わったら健康ランドにでも投げ込んでやらなければ」
「俺はカジキマグロか何かじゃないぞ。あと百回エチュードが続いても平気だよ。楽しんでるからな」
「だったらいいのだが……」
「お、次の階が見えてきた」
「ハッローーーーウ、ヨアキムです。キムちゃんって呼んでね!」
「ジェフリーです。日経平均って何でこんな動き方をするかなあ」
「ちょっともう仕事の話はやめなさいって言ってるのに」
「僕は仕事を趣味にしたんだよ。ああ適当に決めてください。何でもやります」
「カイト、俺気づいたんだけどさ、この塔って日本人の方が少ないぞ」
「僕もそう思った」
to be continued……