「わかった。次のエチュードの内容は、【猫の所有権をあらそう別れそうなカップル】だ」
「ああ……」「まあ……」
「現代アメリカ劇って感じだな。じゃあ登場人物は、恋人たちと、猫?」
「そういうことになるだろうが、別の相手を設定してもいいぞ。勝、お前はどの配役が望みだ」
「いや、そこはお二人に俺があわせますっていうか…………あれ?」
(ジェフとヨアキム、どうぞどうぞと勝を促している)
「……なんか……余裕ですね。お二人とも」
「いろいろやってるからね、演技に関しては」
「この人とんでもないたぬきよ。まあ私も他人のことは言えないけど」
「それは勝のためになりそうだ。勝、せっかくだからカップルの片割れを演じてみろ。申し訳ありませんが、お二人のどちらかが猫をお願いします」
「あらまあ、じゃあ私がお相手役になりましょうか。演じやすいでしょ。ジェッフィ、かわいそうだけどあなた猫ちゃんよ。んー可愛い」
「何でもいいよ。宇宙生物になるのも覚悟してたしね」
「では、ご準備よろしいでしょうか。いくぞ勝。スタート!」
・・・
「何度も言うけど、猫はあたしがもらっていくから。あなたにはあげないからね」
「そんなこと言うものじゃないだろう。二人で面倒を見てきた猫じゃないか」
「だからって二つに引き裂けるわけないじゃない。家にいた時間はあたしの方が長いの。だから猫はあたしのものなの。ねえキティちゃん。ほーらごろごろごろごろ」
「にゃーお」
「……俺たちは本当に別れるのか」
「もう無理だって結論が出てるでしょ。これ以上引き延ばしてどうするのよ」
「でも俺はまだ君を愛しているんだ」
「愛ってアクセサリーみたいなものなのよ、知ってた? 最初にお店やさんで手に取ったときにはキラキラしてきれいに見えるけれど、毎日身に着けたらどこかで必ず飽きが来て、新しいのをお店で見つけたくなるの」
「……君はもう新しいのを見つけたというわけかい」
「そんなことは言ってないでしょ。馬鹿ね」
「じゃあ何故俺をじゃけんにするんだ。俺は君といる未来を思い描いてこの家のローンを払ってきたんだ。やりたくもないセールスマンの仕事を続けて、ただ君のためを思って」
「もうたくさんだわ! あなたの言う『君のため』で、じんましんがでそう! 私たちをつないでいたのはこの猫だけなのよ、気づきなさい。私のためをおもってあなたが何かをしているって言う時は、必ずあなたが自分に嘘をついている時なのよ」
「俺は嘘なんかついてない。君は欺瞞だと思うかもしれないが、俺たちの幸せはきっとどこかにあるはずなんだ。曇った夜に星が見えなくなっても、星が消えたわけじゃないのと同じで、きっとまだどこかにそういう日々があるはずなんだよ。俺はそれに賭けてみたいんだ」
「……………………」
「シャーリー、君を愛してる」
「………………猫は私がもらうからね。代わりに家からは出て行ってあげる」
「シャーリー!」
「あたしみたいな人間に、あなたみたいなまっすぐな人はもったいなすぎるのよ」
「行かないでくれ! 俺は君のことだけを心から……」
「はーい突然ですがここで化け猫の登場ですよ! 化け猫なので言葉を話します。シャーリー、悪いけど僕は彼に飼われてる時の方が幸せなんだ。だから僕のことこの家から連れ出さないでほしいな。頼むよ。ねっ」
「まあなんてこと。キティちゃんが喋った」
「ほら、キティもそう言ってるじゃないか! シャーリー、やり直そう!」
「いやどう転んでもこれはあたしが家を出て行ってあなたとキティちゃんが幸せに暮らすコースでしょ」
「そ、そんなことはないよ……! 仲良くやれるんじゃないかな……!」
「優しいのね、シューマン。あなたはあたしより若い。魂が若いんだわ。ものごとをまっすぐ見て、ありのまま信じられる才能がある。それはもうあたしにはないものなの。さよならシューマン、キティちゃん。可愛がってきたあなたと一緒に行けないのは残念だけど、またどこかで新しい愛と出会えるのを楽しみに頑張ってみるわ」
「シャーリー! 行かないでくれ、シャーリー!」
・・・
「……ああー、どう頑張ってもシャーリーは出て行っちゃう話だったんですね。俺、あんまりしつこく引き留めない方がよかったかなあ」
「悪くなかったよ。あなたみたいなかっこいい人に『行かないでくれ、愛してるんだ』って引き留められるなんて経験、一生に一度あるかないかだもの。ありがと。宝物にする。シューマンって名前、なかなか思いつかなくてごめんなさいね」
「何でもいいですよ! 最後に名前がついて嬉しかったです。しかしキティちゃんが化け猫だったとは思わなかった」
「キティちゃんはもう少しセリフがほしかったなあ」
「シリアスなお芝居になっちゃったから仕方ないじゃない。あとでもっとおしゃべりしましょ」
「まあいいけどね。ああー、日経平均ってどうしてこんな動きを」
「だから仕事の話はやめなさいって言ってるのに」
「勝、階段が出現したぞ。行こう。最後の階だ」
「わかった。お二人とも、ありがとうございました!」
「はーい」「お気をつけて」
「『行かないでくれ、愛してるんだ』」
「突然なに?」
「いや、言っておこうと思って」
「キティちゃん、あのね、あなたを連れて行きたかったのは、本当はシューマンよりあなたの方を愛しているからなのよ」
「でも化け猫だし、化け猫はシューマンの方が好きなんだよ」
「それは嘘よ。シャーリーはわかってるの。猫が誰かに『好き』って顔をする時は、かならず何か裏がある時だって」
「さすが、人生経験が豊か」
「お互い様でしょ。で、これからどうする?」
「パーティにでも行こうよ。せっかくニューイヤーなんだし」
「オーケイ。じゃあキラキラに着飾ってくるから待ってて」
「もちろん。永遠より長くても待つよ」
「はいはい、いつものやつね」
「そ。いつものやつだよ」
「いよいよ最後の階か。ところでさ、この階をクリアしたら、俺とカイトそれぞれの『欲しいもの』が手に入るって書いてあっただろう? 何があるのかな?」
「ギャラだろう」
「いや、そ、それは、ほしいけどさ」
「クリアしてから考えろ。見えてきたぞ。最後の部屋だ」
「どうもお疲れさまでした! いよいよ最後の部屋ですよ。俺は中田正義です」
「リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアンと申します」
「二藤勝です。よろしくお願いいたします」
「鏡谷カイトです。お世話になります」
to be continued!!!