※おことわり※
以下のSSは、辻村七子の誕生日を自分で祝うための「面白いことがしたいな!」という気分に基づくSSです。とてもふざけています。何を読んでもワハハと笑って流していただければ幸いです。また言うまでもありませんが、本作のもとになっている何らかのゲーム作品と辻村とは、一切合切なんの関係もございません。ご承知おきくださいませ。
———————
昔々あるところに、なかたせいぎくんという男の子が住んでいました。
そんなにむかしのことでもないようです。
せいぎくんは心やさしい男の子でしたが、ちょっとおっちょこちょいなところがありました。
ある日、小学校から帰ってくる途中、せいぎくんはふしぎな生き物を見つけました。
ちょうどせいぎくんの腰のあたりまでくらいの背丈の、緑色のフードをかぶったお人形のような生き物です。それが空き地のどかんに挟まれたのか、つつの中に頭を突っ込んだままうごけなくなり、じたばたと脚を動かしてあばれているのです。
学校の授業で『うらしまたろう』を習ったばかりだったからでしょうか、せいぎくんは迷わず不思議な生き物をたすけてあげました。
きゅぽん!
そんな音をたてて、緑色のフードをかぶった生き物がどかんから出てきました。
とたんにせいぎくんは驚きました。
とても美しい顔のお人形さん――のような生き物だったからです。
不思議な生き物は、きらきらした青い瞳でせいぎくんを見て、こう言いました。
「ぽにおー!」
せいぎくんの心の中には、その声がこんな風に聞こえました。
『初めまして、旅のお方。私の名前はりちゃぽんと申します。このたびは大変お見苦しい姿をお目にかけたことをお詫び申し上げます。助けていただいたお礼を差し上げたく存じます』
ぜったいに文字数があっていません。発された音声は「ぽ」と「に」と「お」です。一音どれだけ情報量おおいんだよという話です。でもせいぎくんには確かにそのように聞こえたのです。そしてせいぎくんはそんなこまかいことは全然気にしないたちでした。
「おまえ、すっごくきれいな生き物だなあ!」
せいぎくんは感動したくちぶりでそう言います。りちゃぽんはどこか照れくさそうな顔でふむふむと頷きましたが、ハッとしたように自分の顔を小さな手でさわりました。そしてまた言いました。
「ぽにっ! ぽにぽに!」
その声はせいぎくんにはこのように聞こえました。
『ああ! なんということでしょう。私は仮面をなくしてしまったようです。恥ずかしい』
せいぎくんは問い返しました。
「仮面?」
「ぽにっぽにっ」
そうです仮面です、と、りちゃぽんは言っていました。
なんでもりちゃぽんは、空き地でどかんにはさまれる前には、何枚もの仮面を持っていたそうです。そして今日は、その仮面をつけて、舞踏会に行くところだったというのです。
「ぶとうかい?」
「ぽにっ! ぽにーぽにゃ! ぽにゃぽん!」
『そうなのです。今日は秋のゆうべに一夜だけ開催される、仮面舞踏会の日なのです。それなのに私は仮面をなくしてしまった……ああ、何と言うことか……しかも私はこのあたりの地理には詳しくありません。一体どうしたら……』
そのとき稲妻のように、せいぎくんの脳裏に以下のような文章が流れ込みました。
!!!「宝石商リチャード氏の謎鑑定 ガラスの仮面舞踏会」 10月19日発売!!!
せいぎくんにはそれがなんのことなのか、全く見当もつきませんでした。ほうせきしょう? 発売? そもそもリチャードってだれだろう? わかりません。せいぎくんが自信をもって知っていると言える大人は、母のひろみくらいのものです。ましてや外国人のひとなど論外でした。
目の前ではりちゃぽんが、相変わらずぽにぽに言いながらこまっていました。
そしてせいぎくんは、こまっている相手をほうっておくことができない子でした。
「りちゃぽん、よければ仮面をさがすのを手伝わせてくれないかな。俺はこのあたりには、ちょっとだけ土地勘があるから、りちゃぽんの助けになれるかもしれないよ」
せいぎくんがそう言うと、りちゃぽんは大きなまんまるの目を見開き、キラキラさせ、まつげをしぱしぱさせてせいぎくんを見ました。そしてせいぎくんにとびつき、膝のあたりをギュッとハグしました。せいぎくんは小さな弟ができたみたいでうれしくなりました。
「ようし! それじゃあ一緒に仮面を探しに行こう! まずはどこかべつの公園にいこうか」
「ぽにゃっ!」
『いいえ、私はもっと仮面のありそうな場所を知っています』
りちゃぽんはそう言い、せいぎくんの手を取りました。
とたん、なんということでしょう、りちゃぽんの体が光り輝き、ふたりはふわふわと宙に浮かび始めました。せいぎくんはあわてます。空を飛んだことなんて今まで一度もなかったからです。しかしりちゃぽんは優しそうにせいぎくんに微笑みかけます。
「ぽにお!」
『大丈夫です。さあ、しっかり私の手をにぎって』
そして二人は、仮面をさがす冒険の旅へとでかけることになったのでした。
つづく!