「――日付が変わったね。あなたのお誕生日だよ。おめでとう!」
「ありがとう」
「おめでとーう!」
「ありがとね」
「テンションひっくい。何でもしてほしいことしてあげるよ」
「別にいいよ。そういう関係でもないし」
「どういう関係のこと言ってるの? 友達の誕生日を祝うのは当たり前のことだよ」
「………………」
「ちょっと」
「………………」
「ちょっとー? ハロー?」
「……いや、君と僕は、友達だったんだなあって」
「私の中では、一度会ったら『お知り合い』、二度会ったら『知人』、三度会ったら『お友達』なの。よって私たちはお友達。もう十回くらいは会ってるでしょ? そういう意味」
「ああ、そういうヨアキムコードがあったんだ」
「あったの。さ、何してほしい?」
「いいよ、別に何もしなくて」
「踊ってあげるけど」
「いい。特にないんだ。してほしいこと」
「…………ふーん。ま、いいよ。わかってはいたし。どうせあなたのお誕生日なんて、世界中のセレブがこぞって祝って何か押し付けたがるお日和なんでしょ。飽和状態ってわけね」
「そういうわけでもないよ。大体僕にプレゼントを贈ってくれる手合いは、手配から何から秘書にやらせてるやつらだから。真心って意味では、むしろマイナスかもよ」
「モノはモノだよ。プラスもマイナスもない。修道女の畑の産物だって、世紀の大悪人が育てたものだって、リンゴはリンゴで、飢えを満たしてくれるでしょ。ありがたく受け取っておきなさい」
「はーい」
「……まあ、私にはあげられる『モノ』がないんだけど。ほんとに踊らなくていいの?」
「いい」
「新ネタあるけど」
「いい」
「セクシーなやつ」
「いいって」
「……何か意地になってる?」
「そういうわけじゃないよ。強いていうなら、僕は今、君からプレゼントをもらってる」
「いま?」
「そう」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………何か言ってよ」
「あなたほんとに、友達いないのね」
「ええ? たくさんいるよ。『三回会ったら友達』なんだよね。もう世界中友達だらけだ」
「………………」
「………………」
「…………ねえキム、何か言ってよ。友達だろ」
「『何か』」
「塩だなー」
「今の文脈で『友達だろ』って言われても、なんか認めたくない」
「…………ほんとに優しいね」
「今更?」
「今更」
「その眼鏡、度が入ってないんじゃないの」
「あれ、教えてたっけ? 今日の眼鏡は伊達だよ」
「え? どうして?」
「どうせ外すと思ったし。外した時にも君の顔が見たかったし」
「………………」
「誕生日だから」
「………………」
「ねえ、何か言ってよ」
「…………『何か』」
「キム」
「何」
「ん。ありがと」