今年も代官山蔦屋書店さんで、SFカーニバルが開催される時期となりました。もう何度目の参加になるでしょうか。参加させていただけてありがたいことです。
辻村も合同サイン会に、4/11のトップバッターとして加わりました。それにしても暑かった! 四月の半ばだというのに、何ら問題なく一日半袖で過ごせるお日和でした。すごい。
サイン会ブースで配ったペーパーの内容を、以下に再録します。
本当なら3月に角川文庫から発売された「ルマールの偽伯爵」という書籍の宣伝記事を先に書きたかったのですが、タイミングが合わず……!(早く書きなさい!) 次の更新はその記事になると思います。どうぞ気長にお待ちください。
二〇二六年 SFカーニバルに寄す無料配布ペーパー
―SFって何なのさ― 辻村七子
二〇二六年SFカーニバル開催おめでとうございます。私は四月十一日の初日にサイン会をさせていただきます。現在四月十日の午後十九時です。前日じゃないか。何もお配りするものがないことに気づいて慌てて筆をとっています。何について書こうかと悩み、身の回りのことについて書けばいいのではと思ったのですがあまり面白くなさそうなので、今回はより、SF的な話にしようと思います。
そもそもSFって何なのか?
英語圏ではサイ・ファイと呼ばれるSFですが、サイエンス・フィクションであったり、サイエンス・ファンタジーであったりと、略称の読み方にもいろいろ種類があったりします。日本でより有名なのはサイエンス・フィクションの方ではないかと思うのですが、ではサイエンス・フィクションとは何か? サイエンスって科学だけれど、じゃあ科学って何なのか? ロケットが月まで飛ぶのも科学なら、マッチをすったら火がつくのも胃袋が食べ物を消化するのも科学である。身の回りにあるものって大体科学とかかわっていますね?! しかもそのうしろにフィクション(つくりごと)だったりファンタジー(空想ごと)だったりがついたら、もう何がなんだか……。
言葉の意味をつきつめると自分の手には負えない方向に行きそうなのでざっくりまとめますが、私はSF=「人間」を描くものだと思っています。いやそれは文学全部の話では? いくら何でも大雑把すぎるのでは? という話なのですが、いやもうちょっとだけ説明すると、逆に私は「これはSFじゃない」という言葉が好きではなくて……。エッこれはSFと言っていいのでは? アッこれもSFなのでは? というSF(ザル)鑑定人みたいなところがあります。SFという言葉は、疎外のではなく包括の言葉であってほしいという願いがあるためだと思います。そも、これだけ広大な定義をもつ言葉なのだから、別に全ての文学=「ある種のSF」という、ザルどころかワクのくくりだっていいじゃないかと。そもそもジャンルの定義をせばめていってもグッドなことってあるのかな? これはジャンルというより、物語を読む角度みたいな話かもしれませんが……。このお話をSFとして読むとこうなる、的な。たとえば浦島太郎をSFとして読むと、あれは時間の流れの違う二つの世界を行き来した人間の身に発生する不都合が楽しめるお話だと思います。また二〇二五年に本屋大賞を受賞した阿部暁子先生の「どこよりも遠い場所にいる君へ」(映画化おめでとうございます!)も、SFというくくりで発表されているわけではありませんが、SF要素を持っています。
だから私は、別に、サイエンス(特にテクノロジーに特化したもの、たとえば難しい物理現象や化学反応や生化学に関する事柄など)を中央に据えていないものであっても、SFはいっぱいあると思っています。ただ、書いた人が、そう扱われることを望みさえするのなら、それはSFってことでいいのではないかと。
じゃあ何のためにSFというくくりが必要なのか? あの作品もこの作品もSFだというのなら、そもそもそんなくくりはいらないのでは? 疑問はごもっともです(自分で言っていくスタイル)。私が思うにの話ですが、SFというくくりは、『サイエンス』という言葉の持つ文学的な広がりを、いろいろな人に知ってもらうためのものではないかと思っています。もちろん「こういう話が好き」という人が横断的に本を探す時の便利コードという側面もありますが、それ以上に大きいのは、「物語の世界は広くて! こういう楽しみ方もあるんだよ!」と広く知らしめる役割があるんじゃないかなと。
私は一応SFを書いているには書いているのですが、お世辞にもその分野の中央にいる人間ではありません。売り上げ的な意味でも書くもののテイスト的な意味でも端っこの方に置いてもらっています。とはいえ、過去東京都心のデサインミュージアムで『これも××と言わざるを得ない展』という展覧会がありました。あのタイトルに倣うなら、それでも私は「これもSFと……まあ言わざるを得ない……?」くらいのところにはいて、今後もそのへんにいたいと思います。それで「へえー! SFって面白いじゃん!」と思ってくださる人がひとりでもいてくださったら、SFを愛好する人間として、とても嬉しく光栄です。
いま十九時三十分です。何とかペーパーをイベントに持って行けそうでほっとしています。これをご覧の方は、今開催地である代官山にいらっしゃるのでしょうか?SFカーニバル、どうぞ楽しんでいってください!
全ての人が、自分の好きなことに没入して楽しめますように、そういう世界でありますように。
辻村七子でした。
こんな感じのペーパーでした。
本文中にもあるように、めちゃくちゃ時間がない中で書いたものなので「なんじゃこりゃ」という感じがものすごくありますが、当時の私が言いたかったことを一文で記すと、
・SFというジャンルは幅が宇宙ほどひろいので、あれこれ疎外するものではなく、何かを包含するためのくくりであってほしいし、自分はそう思っている
になると思います。
いやそんなの……当たり前のことじゃん……という話ですが…… 当たり前に仲間づくりをすることが、なかなか難しい世相でもあるので、何だかそういう事も考えたのではないかと思います。世界中の人がみんな仲良くできたらいいのにね…。そんなことをつらつらと考える四月です。まだ桜にも可憐な花が少し残っています。
皆さま素敵な春をお過ごしください!