「いけ! そこだ! 殴れ! 殴りのめせーっ!」 「ガビー、それはサッカーの応援の言葉じゃないよ……」 「いいんだよ! これはサッカーじゃなくカルチョで、しかも『カルチョ・ストーリコ』だから! いけ! ぶん殴れ!」 「あー……痛そうに、あー、あー……」 常ならば観光客や路上駐車でごったがえす、フィレンツェ歴史地区、サンタクローチェ教会前。 その日だけは、四角く区切られ、土が敷き詰められ、四方を客席で埋められていた。 十メートルかける十メートルほどのスペースの中では、赤と白のユニフォームのチームが、ボールを奪って戦っている。スペースの端と端にゴールとされるゾーンがあり、そこまでボールを運んで行けば点数獲得である。 端的に言えばカルチョ――サッカーの試合だった。 だが、反則は、ほぼ、ない。 ボールを奪うために、敵対チームの相手を殴ってもいい。蹴ってもいい。 もっとも原始的な形と呼ばれるカルチョ、
2021年12月17日 集英社オレンジ文庫から、『忘れじのK』シリーズの2巻 『忘れじのK はじまりの生誕節』が発売されました。 このおしらせの記事を書いているのは2022年の1月なので、もう発売から一か月が経ってしまったのですが お手に取ってくださった皆様、ありがとうございます……! フィレンツェで暮らす半吸血鬼のKこと、かっぱさんと、彼と不思議なきっかけで知り合った中退医学生、ガビーの物語です。舞台は現代イタリアです。 Kシリーズがここからまた続くかどうかは全くわからないので、 もしかしたらここでおしまいかもしれない、そうだったら……と思いながら 彼らの決断の物語を書きました。 決断にもいろいろな種類がありますが、彼らの前途に、ゆたかな未来がひらけていることを 生みの親として、ひとりの他者として、心から祈っています。
※この小説は、集英社オレンジ文庫から発売されている『忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む』のネタバレを含みます。まだ読んでいない方は、可能であれば読了後の閲覧をおすすめいたします※ ・ ・ 「ガビー、甘いものが好きなの?」 「どうして」 「だって……」 こういうものを作ってくれたわけだし、と。 テーブルの上を促すかっぱに、ガブリエーレは苦笑いした。 九月に誕生日を迎えた、幸薄いダンピールに、ガブリエーレはスーパーで購入できるありあわせの材料で、コーヒーとマスカルポーネのクリームの重ねもの――ティラミスを作成したところだった。 言いよどんでから、ガブリエーレは答えた。 「甘いものは、そうだな、食べるのが好きだ。ブドウ糖はテスト勉強の相棒だからな。だが作るのは……そうだな…………これが初めて、だな」 「すごく上手だよ。身近に料理が上手な人がいた
2020年12月18日、集英社オレンジ文庫から 「忘れじのK 半吸血鬼(ダンピール)は闇を食む」 が発売されました。 スタイリッシュな挿画は、高嶋上総先生です。 現代のフィレンツェを舞台に、わけありの医学生ガブリエーレ(画像左の黒髪のお兄さん)と、さらにわけありの半吸血鬼の青年(日本人。画像右側の茶髪のお兄さん)が、出会って、一緒に小さな冒険を繰り広げます。 半吸血鬼の青年には隠し事があるのですが、ガブリエーレはどうしてもその秘密の答えを知らなければならない事情を抱えています。 ガブリエーレは答えにたどり着けるのか? 青年は何故隠し事を抱えているのか? 最後に二人はどうなるのか? また不器用な男二人の物語になりました。お好みに合えば幸いです。 2020年は大変な年でした。 宝石商の第二部が完結した後に、長期のおでかけ(取材)を計画していたのですが、サイン会も中止
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