2023辻村七子誕生日おたのしみSS(3)

September 24,2023

※おことわり※

 

以下のSSは、辻村七子の誕生日を自分で祝うための「面白いことがしたいな!」という気分に基づくSSです。続き物です。(1)からお読みください。またとてもふざけています。何を読んでもワハハと笑って流していただければ幸いです。また本作のパロディもとになっている何らかのゲーム作品と辻村とは、一切合切なんの関係もございません。ご承知おきください。

 


 

りちゃぽんは次々に美しい仮面を見つけました。

 

にまいめの仮面は、金髪の男の子がお父さんとお母さんのけんかを見ているところにありました。男の子の両親は、どちらが自分の子どもをひきとるかではなく「引き取らせるか」でもめていて、男の子はただ呆れたように二人の大人を眺めていました。せいぎくんは胸がきゅっとなりましたが、いつの間にかりちゃぽんの手の中にあった仮面は、雪のようにキラキラと輝く、びっくりするほど冷たい白色をしていました。

 

さんまいめの仮面を、りちゃぽんは金髪の男の子が大きなお兄さんと一緒にいるところで見つけました。二人は暖炉の前でボードゲームをしていて――なぜ壁をとおりぬけることができたのか、せいぎくんにはまるでわかりませんでしたが、空も飛んでしまうのだからそういうこともあるかもしれないなと、せいぎくんは自分を納得させました――金髪の男の子のほうが劣勢でした。大きなお兄さんは何故かこまったような顔をしていて、どんどん自分が勝ってしまうのがつらいようでした。それでも金髪の男の子はすました顔をして、大きなお兄さんのゲームの勝利を祝っていました。りちゃぽんが見つけた仮面は、燃えさかる暖炉の火のように赤く、まがまがしい色をしていました。

せいぎくんはたまらず声をあげました。

 

「りちゃぽん、もう三枚も見つかったんだから、仮面探しは終わらせていいんじゃないかな? 仮面舞踏会に行くには、そんなにたくさん仮面が必要ないだろう?」

せいぎくんがりちゃぽんにそう告げると、りちゃぽんはふるふると首を横に振りました。

「ぽにお。ぽに。ぽにおぽにー、ぽにゃ!」

 

『わたしは自分が何枚の仮面をなくしたのかよくわかっています。その全てを回収しないことには、私は舞踏会に行くことができないのです』

 

りちゃぽんは美しく、どこか寂しげな目をしていました。

 

よんまいめの仮面を見つけた時、りちゃぽんはしばらくぼうっとしていました。そこには黒髪の女の人と金髪の男の人が立っていて、男の人のほうにはよく見ると男の子の面影がありました。りちゃぽんは同じ人の思い出を追いかけて、仮面を回収しているようです。

あなたとは一緒にいられないと思う、という女性の言葉を、金髪の男の人とりちゃぽんは、同じようにつらそうに聞いていました。よくわからないながらも、せいぎくんはこれがつらい場面であることがわかりました。二人は互いのことを大事に思っているのに、わかれなければならなかったようです。

ひとり取り残された男の人は、しばらく呆然と立ち尽くしていましたが、その後とぼとぼと歩き、どこかへ去って行きました。

りちゃぽんの手の中には淡い水色の仮面がありました。天使の流した涙のような淡い色です。

せいぎくんは口を開きました。

 

「……りちゃぽん、あの人は泣きたかったんじゃないかな。何で泣かなかったんだろう」

「ぽにゃぽー」

 

『泣いたらもっとつらくなることがあります』とりちゃぽんは言いました。せいぎくんはまだ小さな男の子でしすが、それがどんな時なのかわかりました。泣いてもどうにもならない時です。泣いていれば誰かがやってきて助けてくれるなら、泣く意味もありますが、家の中に一人でいる時にわんわん泣いても、なんだかしらけてしまうだけです。そういう時にはせいぎくんも我慢し、オイスターソースで野菜をいためた料理をつくったりします。

でもそのあとには、決まってとても、心がさむくなるのでした。

 

「りちゃぽん、あの男の人は誰なんだろう。さっき暖炉の前にいた人も、両親の言い争いを聞いていた子も、その前の学校にいた子も、みんな同じ人だろう。どうしてりちゃぽんの仮面はあの人のところにあるんだ?」

「……ぽにぽにぽー」

 

『さあそれは、私にもわかりません』とりちゃぽんは言いました。どこかとぼけた声で、しかもつらそうだったので、せいぎくんはそれ以上何も言いませんでした。

 

「ぽにゃ! ぽにゃっぽー!」

 

『さあ、残すところ仮面はあと一枚です。長い旅に付き合わせてしまいましたね。さあ行きましょう』と言って、りちゃぽんは再びせいぎくんの手をつかみました。

 

そのとき。

 

「……ぽにゃ? ぽにお?」

「ううん、何でもないよ、りちゃぽん」

 

せいぎくんは何かの気配にきづきました。

それはあたたかく、ぽんわりしていて、甘くやわらかい気配でした。

でもそれが何なのか、一体どこにあるのか、せいぎくんにはよくわからなかったので、せいぎくんはりちゃぽんに手を取られるまま、次の仮面を探す旅へと飛び立ってゆきました。

 

 

つづく