俺とお前とSNS

September 24,2022

「二藤勝、なぜ君はSNSをしない」 「えっ?」 「そもそも登録すらしていないのか?」 ほらこれ、と、俺の高校時代の友人にして、現仕事仲間でもある鏡谷カイトは、ずいっとスマホを差し出してきた。 スマホアプリおんちを自認する俺でも知っている、大変ポピュラーなSNSの画像がそこにはあった。 注意喚起と書かれている。 【注意喚起!! このアカウントは本物の二藤勝ではありません。本物の二藤勝はSNSアカウントを持っていません。本人情報は事務所のウェブサイトを参照しましょう。なりすましにご注意ください!】 このアカウント、の後ろにずらずらと並べられたIDに、俺は目が泳いだ。いっぱいある。かなりある。 これは全部、俺になりすましている人のアカウントというものらしい。 「へえー……面白いこと考えるんだな」 「『面白いこと』とはご挨拶だな。ファンにとっては死活問題だ。君の本人アカウントだと思ってフォローした

祭りのあと

September 24,2022

「いいこと教えてやろうか。お前、雑用全部押し付けられてるぞ」 「そんなことはないよ、ワン。諸先輩は私のためを思ってこういったことを」 「押し付けられてんだよ。あいつらは今頃ネオンカラーのピンクのビールで乾杯してるぜ。賭けてもいい」 「ピンクのビールは飲んだことがないな……私の知っているビールというのは、どれも静脈血のような青黒い色をしていて」 「喩え方! 人間らしく適切な喩え方をしろ! 普通の人間は飲み物を血液には喩えねーの! OK? グロいだろ」 「オーケー……すまなかった。無粋なことをした……」 「わかりゃいいけどさ。ったく、ガラクタばっかりだぜ」 「まだまだ使えるものも多いよ」 海上都市キヴィタス自治州高層階。 天にも届く高さの機械仕掛けの街の片隅で、ひとりの人間とひとりのアンドロイドが作業にいそしんでいた。どちらも背中に巨大な金属の籠を背負い、筋力を十倍に増強するロボットアームを装

カルチョ・ストーリコ

September 24,2022

「いけ! そこだ! 殴れ! 殴りのめせーっ!」 「ガビー、それはサッカーの応援の言葉じゃないよ……」 「いいんだよ! これはサッカーじゃなくカルチョで、しかも『カルチョ・ストーリコ』だから! いけ! ぶん殴れ!」 「あー……痛そうに、あー、あー……」 常ならば観光客や路上駐車でごったがえす、フィレンツェ歴史地区、サンタクローチェ教会前。 その日だけは、四角く区切られ、土が敷き詰められ、四方を客席で埋められていた。 十メートルかける十メートルほどのスペースの中では、赤と白のユニフォームのチームが、ボールを奪って戦っている。スペースの端と端にゴールとされるゾーンがあり、そこまでボールを運んで行けば点数獲得である。 端的に言えばカルチョ――サッカーの試合だった。 だが、反則は、ほぼ、ない。 ボールを奪うために、敵対チームの相手を殴ってもいい。蹴ってもいい。 もっとも原始的な形と呼ばれるカルチョ、

祭りの日 a

September 24,2022

飾り立てられた象が大通りをゆく。 ペラ・ヘラ。 俺が住むスリランカ、キャンディの名物ともいえる、仏教の祭典である。毎年夏。占星術的に縁起のよい日を選んで催行される、おしゃかさまの歯という、西洋風に言うなら聖遺物をまつるイベントだ。 美し容れ物に入った歯を、きらきらに飾り立てた象の背に載せて、街の中を練り歩く。 一年で一番、この山の街が賑やかになる日だ。 「いつからかなあ。俺、これ毎年観られるものだと思ってたよ」 「そうでしょうか。海外出張も多かったのでは?」 「まあ、それはそうだけど」 家、というかスリランカの社宅のまわりでペラ・ヘラが催行されているんだなあと思うと、その時イタリアにいようがシンガポールにいようが、俺の気持ちが象の歩く街にとんでいったものだった。お隣のヤーパーさんに電話をして、ジローとサブローの様子を尋ねたりすることもよくあったし。いわば魂が分裂しているようなものだ。キャン

宝石商リチャード氏の謎鑑定・第三部スタート!

July 28,2022

2022年6月17日、集英社オレンジ文庫から『宝石商リチャード氏の謎鑑定 少年と螺鈿箪笥』が発売されました! 本作は『宝石商リチャード氏の謎鑑定』シリーズの、第三部の一冊目にあたります。   新章開幕です。   今までのシリーズを読んでくださっていた方にとっては「あれ? いつもと違う」と思う部分がいろいろある『新章』になっていると思うのですが、書いている人はリチャードシリーズのつもりで書いているので、よろしければ引き続きおつきあいをいただけると幸いです。 いろいろな人たちが、いろいろな場所で出会ってきた宝石商シリーズですが、第三部のベースキャンプとなるのは、神奈川県の横浜市です。 ふるくから『エトランジェ』たちが行きかってきた港街での物語、楽しんでいただけるようにこれからもがんばります!

いつかオペラ座で

May 14,2022

子どもの時、ロンドンの劇場、ロイヤルオペラハウスにあるカフェテリアの上の飾り物が食べたかった。つやつやしたマスカットや、穴のあいた三角形のチーズ、麦わらのカバーにつつまれた胴体の丸いワインの瓶。絵本の中に出てくるごちそうそのままだったから。飾り物ではなく、本当に、食べるために置いてあるのだと思っていた。そしてそれは全部大人の――VIPと呼ばれるような人向けで、だから私には食べさせてもらえないんだと信じていた。そして私は真実、それがいつか食べられる日を夢見ていた。 本当に『大人』になって知ったのは、あれは全部飾り物で、本当に食べるためのものじゃないんだということだった。同時に私は、大人になるということの意味を知った。 夢を見られるのは子どもの間だけで。 夢に大した意味なんてないとわかるのが、大人なのだ。 窮屈なドレスに身を包んで、私はロイヤルオペラハウスのエレベーターに乗った。コヴェントガー

リチャード氏の第三部が始まります

May 1,2022

5月になったばかりの今日から数えると、二か月ほど先ですが 6月17日に「宝石商リチャード氏の謎鑑定 少年と螺鈿箪笥(らでんだんす)」の発売が決定いたしました。 宝石商シリーズの第三部こと、最終部です。 ファンブック、番外編にあたる『輝きのかけら』も含めると、既にリチャード氏シリーズは12巻の大ボリュームになっています。途中下車なさった方、あるいは本編10巻で終点になった……と降りた方もいらっしゃると思います。 でも実は、まだ終わっていなかったんです。 そんなに長くは続きません。これまでも「もう少しだけおつきあいください」と言いながら、一部後半、二部と続けさせていただいてきたのですが、今回は本当に「そんなに長くは続きません」。 (と言っても、今のところの12冊のボリュームで、その何分の一の量、続くのか? と具体的に考えると、「そこそこ長い」かもしれませんが……) 中田正義くんと、リチャード氏

家族の誕生日

May 1,2022

母の誕生日だったので、洋食屋さんにデリバリーを頼みました。 父、母、私の三人でディナーです。 誕生日ですということを伝えたので、注文したじゃがいものスープが、リボンで包まれたパッケージに入っていました。 短く切られた赤いリボンは、再利用が難しそうだったので、捨ててもいい? と尋ねると、 「とんでもない! 私たちは赤い糸でつながれているのよ。 赤の他人だったかもしれないのに、どうしてか夫婦だったり、母子だったりする。 大事にしましょう」 と。 そんなわけでリボンは保存されることになりました。   そんなに名言をぽんぽん発するタイプの人ではなく、どちらかというと 不用意にいいこと然とした言葉を発すると、シニカルにまぜっかえしてくるタイプなのですが 今日はそんな感じの母でした。 じんときたのでblogにメモしておきます。   元気でいてくれるのが、とても嬉しいです。

忘れじのK はじまりの生誕節

January 19,2022

  2021年12月17日 集英社オレンジ文庫から、『忘れじのK』シリーズの2巻 『忘れじのK はじまりの生誕節』が発売されました。 このおしらせの記事を書いているのは2022年の1月なので、もう発売から一か月が経ってしまったのですが お手に取ってくださった皆様、ありがとうございます……!   フィレンツェで暮らす半吸血鬼のKこと、かっぱさんと、彼と不思議なきっかけで知り合った中退医学生、ガビーの物語です。舞台は現代イタリアです。   Kシリーズがここからまた続くかどうかは全くわからないので、 もしかしたらここでおしまいかもしれない、そうだったら……と思いながら 彼らの決断の物語を書きました。   決断にもいろいろな種類がありますが、彼らの前途に、ゆたかな未来がひらけていることを 生みの親として、ひとりの他者として、心から祈っています。  

Time to Act 第六幕

December 31,2021

「……よしわかった。今回のエチュードの内容は、【きびしい学校の先生と生徒と保護者】だ」 「おお! 今までありそうでなかった学園もの!」 「登場人物は、学校の教師、生徒、保護者の三名ですね。正義、あなたはどの配役がお望みですか」 「俺は……そうだなあ、生徒しか経験したことがないから、無難に生徒にしてもらおうかな」 「了解です。じゃあリチャードさんが次に選んでください。俺は最後に残ったのをもらいます」 「では、保護者で」 「じゃ、俺がきびしい先生ですね。よーし、厳しくいきますよ!」 「勝は準備万端だな。ではいこう。最後のエチュードだ。ようい!」   ・・・   「おい佐藤! どういうことだ、この成績は! お父さんもがっかりしてるぞ!」 「失礼先生。わたくしは彼の『お父さん』ではありません。それほど年の離れていない後見人ですが、保護者であることには変わりありませんので」 「お