2023辻村七子誕生日おたのしみSS(3)

September 24,2023

※おことわり※   以下のSSは、辻村七子の誕生日を自分で祝うための「面白いことがしたいな!」という気分に基づくSSです。続き物です。(1)からお読みください。またとてもふざけています。何を読んでもワハハと笑って流していただければ幸いです。また本作のパロディもとになっている何らかのゲーム作品と辻村とは、一切合切なんの関係もございません。ご承知おきください。     りちゃぽんは次々に美しい仮面を見つけました。   にまいめの仮面は、金髪の男の子がお父さんとお母さんのけんかを見ているところにありました。男の子の両親は、どちらが自分の子どもをひきとるかではなく「引き取らせるか」でもめていて、男の子はただ呆れたように二人の大人を眺めていました。せいぎくんは胸がきゅっとなりましたが、いつの間にかりちゃぽんの手の中にあった仮面は、雪のようにキラキラと輝く、びっ

2023辻村七子誕生日おたのしみSS(2)

September 24,2023

※おことわり※ 以下のSSは、辻村七子の誕生日を自分で祝うための「面白いことがしたいな!」という気分に基づくSS、その2です。(1)から続いています。内容はとてもふざけています。何を読んでもワハハと笑って流していただければ幸いです。また言うまでもありませんが、本作のもとになっている何らかのゲーム作品と辻村とは、一切合切なんの関係もございません。ご承知おきくださいませ。     ———–   せいぎくんとりちゃぽんは、手をつないで雲の中をとんでゆきました。 きらきら輝く雲は、おかしなことにどこまで飛んでも切れ目なくつづいています。そして空の上だというのに、せいぎくんは少しも寒くありませんでした。 「りちゃぽん! どこまで行くんだ!」 「ぽにっ、ぽにーっ!」   『それほど遠くではありませんよ』とりちゃぽん

2023辻村七子誕生日おたのしみSS(1)

September 24,2023

※おことわり※ 以下のSSは、辻村七子の誕生日を自分で祝うための「面白いことがしたいな!」という気分に基づくSSです。とてもふざけています。何を読んでもワハハと笑って流していただければ幸いです。また言うまでもありませんが、本作のもとになっている何らかのゲーム作品と辻村とは、一切合切なんの関係もございません。ご承知おきくださいませ。   ———————   昔々あるところに、なかたせいぎくんという男の子が住んでいました。 そんなにむかしのことでもないようです。 せいぎくんは心やさしい男の子でしたが、ちょっとおっちょこちょいなところがありました。 ある日、小学校から帰ってくる途中、せいぎくんはふしぎな生き物を見つけました。 ちょうどせいぎくんの腰のあたりまでくらいの背丈の、緑色のフードをかぶ

20xx年のアスコット

June 28,2023

世の中には二種類の人間がいる。品定めを『する』側と、『される』側である。 その極致がこの場所なのかもしれないと、十八歳のジェフリー・クレアモントは理解していた。 「まあ素敵なお召し物。次代をになう坊ちゃまがご立派で、お父さまもさぞかし鼻が高いでしょうね」 「ありがとうございます、メアリー夫人。ですが自分は次男ですので」 「本当にねえ。こんなことは言わない方がいいのかもしれませんけれど、お兄さまとあなたが逆でしたらよかったのに」 言わない方がいいかもと思ったなら言うなよ、と思いつつ、クレアモント伯爵家の次男は礼儀正しい笑みを浮かべ続けた。メアリー夫人は近隣の侯爵家の先代当主の夫人で、御年は八十に近い。何を言われても目くじらを立てるべきではなかった。 六月のイギリスを代表する風物詩、ロイヤル・アスコット。 アスコット競馬場と呼ばれるロンドン郊外の場所で開催されるのは、王族主催の華やかな競馬だっ

つきのひかり

May 14,2023

花の中で眠っていた。 目が覚めた時まず、えっどうした、と思った。頭の上で花が咲いているのだ。赤とオレンジのあいだくらいの淡い色合いの花。コクリコだろう。ベッドやソファでうたたねした時とはまるで視界が違う。花の上には空が広がっている。明らかに屋外だ。 そして。 「おはようございます」 リチャード。 空と、花と、リチャード。 何だかポエティックだなあと思いながら、わけのわからないまま目を擦り、上半身を起こすと、頭の上から葉っぱが落ちた。 庭園と池。太鼓橋。ああ。 「ヘンリーさんの新しい家……だっけ」 「その通りです」 「コンセプトが印象派で、ええと、ここは」 「ジヴェルニー」 「ってことは、フランス」 「ウィ」 その通りです、とリチャードが答える。徐々に状況理解が現実に追い付いてきた。 俺とリチャードは一週間前からヨーロッパ大陸に来ている。ミュンヘンでのミネラルショーに参加するためだ。ミュンヘ

捨てられない男

April 27,2023

「うーん…………」 スリランカ、キャンディ市某所の社宅。 二階のクローゼットを前に、俺、中田正義はうなりごえをあげていた。 高校生や大学生の頃には想像だにしなかった悩みに直面したのである。 服がもう、収納に入りきらない。 捨てないと入らない。 バラエティ番組か何かで『服を買いすぎてしまう女性』というものを初めて見た時に、世の中にそんな悩みがあるのかと感動すらした俺が、二十代半ばの今、その悩みを我が事として引き受けている。これもある意味感動的ではあるが、どっちかというと現実逃避だろう。 捨てなければ。 服を捨てなければならない。 まずはクローゼットの現状を認識しよう。スーツはいい。新しいものを買った時には古いものをご近所さんに差し上げているので、それなりに回転している。私服もいい。着まわしているポロシャツやTシャツは量販店のものなので、古くなったら雑巾にしている。 問題はこれだ。 「正義、ど

【新連載】”青春と読書”で骨董の話を連載します

March 22,2023

2023年3月の20日ごろに発売になった、集英社の雑誌『青春と読書』の中で、辻村七子の新連載が始まりました。 新作書き下ろし小説です。タイトルは、 『京橋骨董かげろう堂』です。 まだ連載が始まってすぐなので詳しい内容については控えますが、東京都の京橋で、骨董品を扱っているお店『かげろう堂』と、そこで働いている人々、そして骨董品の物語になります。   『青春と読書』はwebサイトから”見本誌の請求”をすることができます。一冊だけバックナンバーを無料で取り寄せられるサービスです。ちなみにこの2023年4月号は、No.561号です。 http://seidoku.shueisha.co.jp/ (「青春と読書」webサイト)   加えて、『京橋骨董かげろう堂』は、雑誌の連載から一か月遅れでweb連載が決定しております。 4月号(3月の20日ごろ発売)の

【新刊】僕たちの幕が上がる 決戦のオネーギン 発売

March 22,2023

2023年3月2日 ポプラ文庫ピュアフルから『僕たちの幕が上がる 決戦のオネーギン』が発売されました! 挿画は前作『僕たちの幕が上がる』に続いて、TCB先生です。 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8111349.html (上記のリンクは、ポプラ文庫ピュアフルのwebサイトです) この物語は演劇にかける青年たちの青春ストーリー、と紹介されていますが、『青年たち』といっても、主人公の俳優・二藤勝(にふじ・まさる)と脚本演出家の鏡谷カイトは20代です。そこに今回は、若干19歳の若きホープ・南未来哉(みなみ・みきや)くんが加わります。 勝は熱血スポコン系の性格、カイトはあまり感情を表に出さないクール系パッションな男ですが、果たして南未来哉くんはどんな性格なのでしょう……?   また今回のタイトルに入っている『オネー

おつかれさまの話

February 4,2023

「うかない顔してますね」 「……ジェフリーさん」 「中田くんはそんなにパーティが苦手でしたっけ?」 晩夏のフランス。 ロワール川沿いに建つ古城が、今日のレセプションの会場だった。 クラシック音楽とEDMをまぜた、どことなく上品なダンスミュージックが、宝石とアンティークの展示された一階ホールを満たしている。フランスに軸足を持つ大手ブランドの新コレクションお披露目パーティで、俺とリチャードは招待客枠だった。厳密にいうとリチャードだけが。一名同伴可能。 俺は秘書枠、ガードマン枠である。 だが、おおかたの招待客は、パートナーを伴っていた。 美貌の宝石商、英国伯爵家の血をひくリチャードは、引く手あまたの生きた宝石である。まあ何て素敵、まあエレガント、さまざまな言葉で存在を称賛され、それとなく探られる。 そちらの方は? と。 秘書ですとリチャードは紹介する。 ああそうなのね、と皆さんは微笑み、俺を眺め

2022クリスマスSS / Noel

December 24,2022

十二月二十四日。クリスマス・イブ。人々の気分が浮き立つ日。 俺の大事な上司リチャード氏の誕生日でもある日。 何という運命のいたずらか、俺の上司は宿泊先のアパルトマンで体調を崩してしまった。それほど熱は出ないタイプの風邪のようだったが、倦怠感と吐き気がひどいらしく、白い顔をしてベッドでうなっている。心配だ。非常に心配である。だがそれ以上に、申し訳ないのだが少しおかしい。 「健康です。私はまったくもって健康です」 「絶対調子が悪いだろ。そのまま寝てろよ」 「今は多少物憂い気分であるため横になっていますが、気が晴れたらすぐにでも起きてあなたの料理をいただきたく思っています」 「無理するな。たまごのおかゆ作ってるから。あ、ポリッジの方がよかった?」 「正義、せっかくのイブなのです…………」 「関係ないよ。暦のために人間がいるわけじゃないだろ。人間のために暦があるんだ」 「それでも地球が回るのと同じ